膝の炎症と闘った投手がいた — CCサバシアという“症例”
2026/8/5
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前回の記事「大谷翔平の左膝に、いま何が起きているのか」で、オフには関節鏡のクリーンアップを受けることになるのではないか、と書きました。 その見立ての根拠のひとつが、よく似た膝炎症を抱えながらキャリアを全うし、殿堂入りした投手の存在です。
CCサバシア。通算251勝、サイ・ヤング賞投手。彼は左投手なので、踏み込んで着地するのは右脚です。 つまり彼の右膝は、右投手・大谷さんの左膝と、同じ役割——毎球、着地の衝撃を受け止める方の膝でした。 その膝にまつわる怪我との闘いを、少しだけたどってみます。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2010年オフ | 右膝半月板の関節鏡手術。当初、回復約3週間の、軽微なものとされた。この年は21勝7敗・防御率3.18と、キャリア絶頂期のさなか |
| 2011〜13年 | 術後も2011年は19勝8敗・防御率3.00、2012年も15勝6敗・防御率3.38と一線級。ただし2013年は球速の低下とともに14勝13敗・防御率4.78と、陰りが見え始める |
| 2014年5月 | 登板後に腫れ→水抜き→MRIで「変性性変化=軟骨の摩耗」と診断される |
| 2014年5〜6月 | コルチゾン+幹細胞の注射で保存療法。投球のリハビリは55球まで順調に進む |
| 2014年7月 | マイナーでの実戦登板の翌日に腫れが再発。保存療法の失敗が確定し、関節鏡のクリーンアップでシーズン終了(この年は8登板・3勝4敗・防御率5.28) |
| 2015年4〜8月 | 復帰したが、装具なしで投げた24先発は4勝9敗・防御率5.27。この間も2度の水抜きと鎮痛注射でしのぎ、8月下旬に膝の炎症で再び離脱 |
| 2015年9月 | 膝装具を初めて着けて復活。装具をつけた終盤5登板は2勝1敗・防御率2.17で、チームのポストシーズン進出を決める白星も |
| 2016年〜 | 手術後もフォーシームの球速は戻らず(全盛期から約5マイル減)、速球をカッター中心に切り替えて投球を再設計。2016〜18年は3年連続で防御率3点台に戻し、2017年は14勝5敗・防御率3.69 |
| 2016年・2018年オフ | 膝の追加手術(キャリア通算4回)。装具と定期的な注射で管理を続ける |
| 2019年 | 最後まで膝と付き合いながら投げ切り、引退(引退の直接の原因は膝ではなく肩) |
登板後の腫れ。水抜き。注射での保存療法。そして、リハビリの投球で症状がぶり返す——。 CCサバシアの約10年に及ぶ、右膝の変形性関節症(軟骨がすり減り、炎症を繰り返す膝)との闘いの歴史です。
サバシアの、膝炎症との向き合い方
2014年、保存療法の失敗が確定したとき、ヤンキースのGMキャッシュマンはこう説明しました。 「リハビリという最小の選択肢は試して、駄目だった。今は次の選択肢——膝のクリーンアップだ」と。 水抜きや注射で駄目なら、次は関節鏡で傷んだ組織を掃除する。サバシアは関節鏡クリーンアップで2014年のシーズンを終えました。
翌2015年には、膝装具との出会いがあります。じつは装具は、2月の復帰の時点でも勧められていました。サバシアは「窮屈だ」と、断っています。 そこから防御率5点台と打ち込まれ、水抜きを重ねた末の9月——ようやく装具を受け入れると、最後の5登板は防御率2.17。 興味深いことに、球速は装具の前後でほとんど変わりませんでした。変わったのは、痛みなく投げられるようになったこと。それだけでした。
それでも、全盛期のフォーシームの球速だけは、最後まで戻りませんでした。そこでサバシアは2016年、落ちた球速に合わせてカッター比率を増やし、 投球を丸ごと作り直します。結果は、2016〜18年の3年連続で防御率3点台。2017年には14勝を挙げ、若いチームの精神的支柱として復活します。 装具を着け、定期的に注射を打ち、オフごとに膝の手当てをしながら——関節鏡のクリーンアップ後も、5年間、先発として投げ続けました。 膝の問題には「治す」だけでなく、「管理しながら投げる」道もある。それを最後まで体現して、2025年、殿堂入りを果たしています。
では大谷さんの左膝は——
報道された処置をサバシアと並べると、ちがいが見えてきます。 サバシアは保存療法の段階で膝の水抜きを行い、注射も、起きている炎症を強く抑えるコルチゾンと幹細胞でした。 大谷さんは、AS前の処置で水抜きは行われず、注射は、関節の潤滑を補って軟骨を保護するヒアルロン酸のOrthovisc。 処置は症状に合わせて選ばれるものです。報道された事実だけを見るかぎり、大谷さんの左膝は幸い軽傷の段階にあると思われます。
そして、「軽傷のうち」であることには、大きな意味があります。 サバシアが関節鏡のクリーンアップを受けたのは、軟骨のすり減りが進み、水抜きが欠かせなくなった後でした。その段階の掃除は、痛みを減らす「延命」にしかなりません。 一方、すり減りが広がる前の、限られた傷が悪さをしているだけの症状なら、掃除はそのまま原因の除去——実質的な根治になり得ます。 同じ処置でも、早く受けるほど意味が変わる。サバシアの道のりが教えてくれる、いちばん大事なことだと思います。 おそらく大谷さんも、このオフに関節鏡のクリーンアップを受けるのではないかと思います。 だとすればそれは、延命ではなく——長く二刀流を続けるための手術に、なっていくのではないでしょうか。
おわりに
正直に言えば、いちばんの願いは、この膝炎症をこれ以上悪化させないでほしい——それに尽きます。 サバシアの歴史が教えてくれたのは、摩耗が進んでからでは、治療の選択肢が「延命」の側に狭まっていく、ということでした。 幸い、大谷さんの左膝はまだ軽傷の段階にあると思われます。 急いだ数登板と引き換えに、その立ち位置を失うことだけは、あってほしくありません。
とはいえ、大谷さんのことなので、膝の炎症をかかえながらも、ポストシーズンには必ず出力を上げてくるはずです。 おそらく、いま大谷さんの眼中にあるのはMVPではなく、ワールドシリーズ3連覇でしょう。 ポストシーズンへ向かう最終盤——9月には、大谷さんらしい二刀流の活躍が見られる。 そのための出力配分と調整を、いまは我慢強く続けているのだろうと思います。 だからファンとしては、焦らず、見守りつつ応援するしかないですね。来年も、その先も——二刀流で躍動する大谷さんを、長く見ていたいですね。
出典: MLB.com / ESPN / Sports Illustrated ほか各報道(2014〜2019年・2026年)。 処置・復帰期間に関する記述は一般的な整形外科の知見に基づく解説で、個別の診断ではありません。
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