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大谷翔平、防御率悪化の謎 — 数字が示す、変わっていないクオリティ

2026/8/1


この記事は約 8 分で読めます。


大谷翔平2026年、得点圏で打席を終わらせた決着球のコース図。最初の10登板(防御率0.74)と最後の4登板(防御率4.38)の比較。
得点圏で打席を終わらせた「決着球」のコース(捕手視点)。赤リング=被安打で、数字はその球の球質評価(Stuff+)。最初の10登板は際どい5球で被安打0、最後の4登板は同じようなコースの球が次々と安打になりました。

2026年前半、投手・大谷さんの数字は、途中で大きく様子を変えました。最初の10登板の防御率は0.74。6月10日からの4登板は4.38です。

投手・大谷さんの成績スプリット。三振も四球も、ほとんど変わっていません。
今季の14先発最初の10登板最後の4登板
防御率0.744.38
奪三振(9回あたり)9.910.2
与四球(9回あたり)2.72.9

ただ、この表には少し不思議なところがあります。三振も四球も、ほとんど変わっていません。変わったのは被安打だけで、9回あたり4.4本から9.1本へ、約2倍になっています。

膝の負傷、捕手の交代、指の豆——この時期の大谷さんには、理由になりそうな出来事がいくつも重なっていました。実際のところ、何がどれだけ変わっていたのか。公開データ(Statcast)で、1球ずつ確かめてみました。

※ この記事の球速・コース・打球速度などの計測値は、すべてMLB公式のStatcast(Baseball Savant)とMLB Stats APIの公開データを使っています。対象は〜7/3の全14先発です。

球質は、変わっていない

まず、球そのものから見ていきます。

当ラボの球質評価(Stuff+、100=リーグ平均)は、最初の10登板が114、最後の4登板が112。ほぼ横ばいです。フォーシームの球速はむしろ上がっており、得点圏で球速を1.4mphほど上げる、いつもの「ギアアップ」もそのまま残っていました。失点が増えた4登板の投球価値(Pitching+)を登板ごとに見ても、97・117・108・117——0点台だった頃と同じ水準の球を投げ続けています。

少なくとも、球の力が落ちた形跡は見当たりません。次に、投げたコースを確かめます。

決着球のコースを、確かめる

失点に直結する場面——得点圏で打席を終わらせた球(決着球)を全部拾い、コース別に並べてみました。冒頭の図が、その全球です。

得点圏で打席を終わらせた球のコース内訳。際どいコースの被安打が0本から3本に増えています。
得点圏の決着球最初の10登板最後の4登板
総数 / 被安打38球 / 3本25球 / 8本
際どいコース(ゾーンぎわ)5球 / 被安打05球 / 被安打3
ゾーン内甘め16球 / 被安打19球 / 被安打4

序盤の大谷さんは、ゾーンぎりぎりの決着球を1本も打たれていませんでした(被wOBA .000)。それが最後の4登板では、同じ「際どいコース」が5球中3球、安打になっています(.540)。

数字だけ見れば、「決め球の制球が甘くなった」という説明がいちばん自然に見えます。ですが、打たれた球を1球ずつ確かめると、少し違う状況がみえました。

打たれた球の、中身

最後の4登板で安打になった「際どい3球」のStuff+は、117・117・115。序盤と変わらない高水準の球です。しかも3本のうち2本は、打球の質(xwOBA)が.164と.250——本来なら打ち取った当たりと呼べる、力のないゴロでした。それが内野の間を抜けて、記録は安打になっています。

もうひとつ、見落としがちな事実があります。0点台だった前半も、得点圏の決着球の4割はゾーン内の甘めのコースにいっていました。16球です。ただし、打たれたのは1本だけ。つまり前半は、甘い球を投げていなかったのではなく、甘い球が安打になっていなかった——データ上は考えられます。

打球の質も、変わっていない

では、ゾーン内で勝負した球がどれだけ強く打たれていたのか。打球の質を両期間で並べます。

ゾーン内で勝負した決着球の打球の質。中身はほぼ同じで、強い当たりが安打になる割合だけが反転しました。
ゾーン内決着球の打球最初の10登板最後の4登板
平均xwOBA(打球の質).341.344
平均打球速度92.6mph91.8mph
強い当たり(xwOBA≥.400)→ 安打7本 → 2本4本 → 4本

打球の質は、両期間でほとんど同じでした。得点圏全体で見ると、強い打球(95mph以上)の割合はむしろ前半が56%、最後の4登板は17%。強く打たれていたのは、0点台の頃のほうだったのです。

違っていたのは、打球の行き先でした。前半は、xwOBA .725、.683、.578といった強烈な当たりが野手の正面に飛び、アウトになっています(強い当たり7本のうち安打は2本)。最後の4登板はその逆で、強い当たり4本がすべて安打になり、xwOBA .115や.048の弱いゴロまで野手の間を抜けていきました。

数字が示すのは、結果の揺れ

ここまでを整理します。球質は同じ。三振も四球も同じ。決着球のコース取りも、打球の質も、大きくは変わっていない。変わったのは、同じ質の打球が野手の正面に飛ぶか、間を抜けるか——ほぼその一点でした。

これを映す数字がBABIP(フェアの打球が安打になる割合)です。前半の大谷さんは.199(リーグの標準はおおよそ.290前後)。それが最後の4登板は.343で、今度はかなり下に振れました。

結果と中身のずれも、同じ形をしています。前半の被wOBAは.209で、打球の質から計算される期待値(.235)より良い数字でした。最後の4登板は.313で、期待値(.273)より悪い数字です。0.74という防御率には実力に上振れが、4.38には下振れが、それぞれ乗っていた——データからは、そう読むのが最も自然だと思います。

今の防御率は、妥当なのか

最後に、この問いです。14登板を終えて、シーズン防御率は1.79。一方、打球の質から算出される公式の期待値(xERA、Baseball Savant)は2.71です。ここまで見てきた「運」の揺れを差し引きしたライン——数字上はそう読み取れます。

ですが、ひとつだけ、この期待値では測れないものがあります。以前のコラム「ピンチで、球が速くなる男」で確かめた、得点圏でのギアアップです。大谷さんは、得点圏でフォーシームの球速を約1.4mph上げる投手です。xERAはすべての場面を同じ重みで均しますが、大谷さんは、いちばん大事な場面で、いちばんいい球を投じます。この「場面ごとの出力配分」が実力なのだとすれば、失点は期待値(xERA)をいくらか恒常的に下回るはずです。

だとすると、本当の収束点は2.71と1.79のあいだ——案外、1.79の近くにある可能性もあります。

85.2イニングの意味

さて、大谷さんは7月3日を最後に、マウンドに立っていません。左膝の回復を優先するのであれば、投手としての今季がこのまま終わる——その可能性も、頭の片隅には置いておくべきなのだと思います。だからこそ最後に、これだけは書いておきたいのです。

今シーズンが、もし「85.2イニング、防御率1.79」で終わったとしても。

その数字は、“失速”を示す数字ではない、ということ。

むしろ、オフに左膝を万全の状態まで回復させ、再び二刀流として挑む大谷翔平の――次の章の始まりを予感させるに、十二分な数字だと私は思います。

編集 @shoheidailylab


データ出典: Baseball Savant (Statcast)・MLB Stats API(〜7/3の全14先発)。Stuff+ / Pitching+ は当ラボ独自モデル(100=リーグ平均)。コース区画は当ラボAttack Map基準(ゾーン内甘め=heart/際どい=shadow)。 決着球=打席を終わらせた球。最後の4登板は約24回・得点圏決着25球の小標本のため、数値は傾向として記載しています。

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