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大谷翔平の本塁打はなぜ減ったのか — 衰えか、二刀流を続けるための選択か

2026/7/4


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大谷翔平の打球パワー指標 2021〜2026年の推移。2022年と2026年がよく似ている。
打球パワー/アプローチの年次推移(2021–2025はフルシーズン/2026は6月末まで)。2024・2025がパワーのピーク、2022と2026は同じ“控えめ”の水準に並びます。

2026年の大谷さんは、本塁打が例年の半分ほどのペースにとどまっています。 31歳、投手としてフル稼働に戻ったシーズンでもあります。素直に考えれば「衰えの始まりか」という思いがよぎります。

ただ、そう心配するより前に、公開データ(Statcast)で一つずつ確かめてみました。 過去の年は基本フルシーズン、2026年はまだ途中(6月末時点)の数字です。各表の対象期間は、 それぞれの表の下に記しています。

スイングの数が減った?

まず、単純にスイングの数を見ました。スイング減があれば、そもそもインプレー機会が減ってしまいます (さらには本塁打減につながります)。1打席あたりのスイングは、2023〜24年の約1.85から2026年は1.70へ、 6年間で最も少ない(−8%)ことがわかりました。ただ、本塁打の落ち込みは−35%で、桁が違います。 スイング数の減少だけでは、本塁打の減少を説明できません。

次に、ボール球とストライクでスイング率を分けました。ボール球を追う率(チェイス)は下がっていません (26→28%)。減っていたのはストライクを振る率のほうで、70%から62.6%へ落ちていました。 「ボール球を我慢するようになった」のではなく、「ストライクを見送るようになった」のです。

見送っているコース

そのストライクの内訳を見ると、見送りが増えているのは外角でした。しかも、打者有利のカウントでも 外角のストライクに手を出していません。一方で内角とど真ん中のスイング率はほとんど変わりません。 外角を割り切って捨て、強くコンタクトできる内角よりの球を待つ——という選択がうかがえます。

なぜ外角を捨てるのか。ここからは推察になりますが、外角低め——とりわけ低めいっぱいのコース——は、 もともと大谷さんにとって数少ない弱点で、振った打球の期待値(xwOBA)が低いゾーンでした。 そこを無理に拾いにいけばスイング全体のバランスを崩しやすく、かといって振っても得られる期待値は高くありません。 むしろ見送って四球を選んだほうが、打席としての貢献は大きくなります。だとすれば、外角を割り切って見送るのは、 自分の弱点を突かれたときのもっとも合理的な答え——という判断が働いているのかもしれません。 強くコンタクトできる球だけに絞る選択は、この判断と地続きに見えます。

(余談ですが、この「外角の割り切り」は6月29日の一打席によく表れていました。左投手が追い込んだあと、 通常はまず来ない内角高めのスイーパーを投げました。過去6年、左腕からのこのコース・この球種で大谷さんが打った 本塁打はゼロでしたが、この日は初動で捉えて本塁打にしました。内に張っていたから届いた一発、と読めます。)

四球数と外角スイング率。四球は最多ペース、外角に手を出す率は最低です。 ※四球は総数のため、2026年に合わせ各年とも6月末まで(同一期間)で揃えています。
四球数外角スイング率
20213234.9%
20223336.2%
20234133.7%
20244232.2%
20255028.4%
20265427.6%

コンタクトした球の質

外角を捨てる代わりに、内角とど真ん中を確実に仕留められているかを見ました。この2ゾーンに絞ると、 バレル率(芯を食った強い当たりの割合)は29%で例年並み、打球速度も打球角度も正常でした。狙った球を叩いたときの質は、落ちていません。

ただし、打球全体で見るとバレル率は下がっています(22%→16%)。この点は気になります。 スイングの質そのものが低下しているのか、場面によってスイングの強度を変えているのか。 普段の振りを例えばフラットなコンタクト重視に変えれば、強い打球は減ります。

打撃のスタイル

その点を確認するため、バットの動きそのものを計測したデータ(bat speed・swing length・attack angle・接触点)を見てみます。 このデータは公開されているのが2024年以降に限られます。その3年で並べると、2026年は接触点を約3インチ深く打者側に呼び込み、 スイング軌道をフラットにし、平均バットスピードを一段落としていました(74→72.9マイル)。 とくに全力スイング(時速75マイル以上)の割合は、56%から44%へはっきり下がっていました。 振り方を、明らかに変えています。コンタクト重視スタイルへの変化を示唆しています。

スイング計測(2024年から取得可能)。接触点は「本塁までの距離(インチ)」で、小さいほど深く呼び込みます。 ※2024・2025はフルシーズン、2026は6月末までの数字です。
接触点(in)スイング角(°)スイング長(ft)平均バットスピード全力スイング率
202426.310.87.7274.758.3%
202527.414.67.9174.155.6%
202625.512.47.8072.944.1%

左膝の負傷の前後

6月中旬に左膝を痛めているので、中盤の変化がケガによるものかどうかも切り分けました。 負傷前と復帰後でスイングを分けると、復帰後はバットスピード・フルスイング率・打球速度・本塁打率が いずれも上がっていました。復帰後は45打席と小さいサンプルですが、少なくとも「膝で状態が落ちた」という説明は 当てはまりません。

左膝の負傷前(〜6/11)と復帰後(6/14〜)。復帰後はすべて上昇しています。復帰後は45打席の小サンプルです。
指標負傷前復帰後
バットスピード72.973.4
フルスイング率(75mph+)43.7%49.4%
打球速度(EV)93.596.4
本塁打率(HR/PA)4.4%6.7%

本塁打を打ったときのスイング

気になるのは、この平均バットスピードが落ちたことが、「振れなくなった」のか「振らないことを選んでいる」のか。 ここを分けるために、本塁打になったスイングだけを取り出しました。

2026年に本塁打を打ったときの平均バットスピードは77.5マイルで、前年の77.3とほぼ同じです。 最速の一撃は82.4マイルで、これも前年と同値でした。本塁打の平均打球速度は、6年間ずっと109マイル前後で 動いていません。加えて、2026年の本塁打スイングはどの年より長く、鋭角でした。 本塁打を打つ瞬間のスイングは、各年と変わっていません。つまり、振れないのではなく、 全力の一撃を出す回数のほうを抑えている、と考えるのが自然です。

本塁打を打ったときのスイング。バットスピードは前年とほぼ同じ、最速は同値、平均打球速度は109マイル前後で不変です。 ※2024・2025はフルシーズン、2026は6月末までの数字です。
平均バットスピード最速平均打球速度(EV)
202478.984.4109.1
202577.382.4109.2
202677.582.4109.0

2022年との一致

最後に、打球のプロファイル全体を年ごとに並べました(冒頭のカード)。すると2026年は、2022年とよく重なりました。 打球速度、最高打球速度、ハードヒット率、本塁打ペース、長打率——健康だった二刀流シーズンの2022年と、 ほぼ同じ水準でした。打撃出力が突出していたのは、打者に専念した2024年とその翌年で、 投げて打つ形に戻った2026年は、2022年の水準に戻ったように見えます。 天井(最高打球速度・最速スイング)は残したまま、平均だけを二刀流仕様にコントロールしています。

データから見た結論

ここまでを並べると、2026年の本塁打減は、身体的な衰えというより、投手としてシーズンを投げ切るための 出力配分の結果として説明がつきます。普段は深く呼び込み、フラットに、力をセーブしてコンタクト重視で打ちます。 そのうえで、本気の一撃だけは各年と変わらない速度と飛距離を残しています。

現時点での結論は、衰えよりも出力配分(スタイルの選択)の側にある、というものです。

そして、二刀流の行く末

では、なぜ大谷さんは、2022年型のスタイルに寄せたのでしょうか。ここからは数字ではなく、私の見立てです。 まず外せないのが、年齢です。大谷さんは今年、32歳になります。まだ全盛期のただ中ですが、20代の頃に比べれば、 疲労が抜けるのに少し時間がかかる年齢でもあります。その疲労は、痛みに、ときに怪我につながります。投げて打つという 負荷を背負う以上、そのリスクは以前より大きくなっています。一年を投げ切り、打ち切るために、力の出しどころを選ぶ—— それは、ごく自然な判断に思えます。

誤解のないように書いておくと、「もうフル二刀流はできない」という話ではありません。むしろ逆かもしれません。 経験を重ねたぶん、力の配分も身体の使い方も賢くなり、より効率よくチームに貢献する二刀流を描けるようになっています。 リハビリを越えて迎えた本格的な二刀流シーズンを、「新しい二刀流」のスタートとして受け止めている——そんな気持ちが、 どこかにあるのかもしれません。

とりわけ、投手としての意気込みは、これまでのインタビューからも伝わってきます。全盛期のうちに、投手として 納得のいくシーズンを送りたい。そう考えていても不思議はありません。だとすれば、かつて投手に比重を置いた2022年を 下敷きにしながら、あのときより投打の両方をうまくやろうとしている——そう読むこともできます。打撃の出力を一段 セーブしているのは、その裏返しなのかもしれません。

ファンとして、思うこと

ここで、胸に留めておきたいことがあります。私たちはすでに、いくつかのシーズンを大谷さんと過ごしてきました。 投手に比重を置いた2022年も、打者に専念して史上初の50本塁打・50盗塁を達成した2024年も。そこで学んだのは、 身も蓋もない事実です。投手としての出力と、打者としての出力は、トレードオフの関係にあります。どれだけ規格外でも、大谷さんもまた人間で、世界で最も過酷なリーグで戦っています。フィジカルが全盛期にあってさえ、 投げるほうも打つほうも100%、というのは難しいものです。チームを勝たせようと投打の両方で走り抜こうとした2023年が、 どんな結末を迎えたかも、私たちは見てきました。

幸いなことに、いまのドジャースは、大谷さんが無理をしなくてもシーズンを勝ち抜ける強いチームです。大谷さんが一人で 背負い込む必要はありません。だからこそ、普段は力をセーブし、ここぞの一撃だけを温存する——今回のデータが示した “出力配分”は、この環境だからこそ選べる、賢い戦い方でもあるのです。

そして、忘れたくないことがあります。大谷さんは今も、誰も歩いたことのない道を歩き続けている、ということです。 二刀流という領域には、お手本がありません。どこまで投げて、どこまで振るか。その配分の正解を、大谷さんは毎日、 手探りで探しています。うまくいく日もあれば、身体が小さく痛みのサインを出す日もあります。本塁打が減った今年の“事件”も、 その手探りの一部なのだと思います。

新たな領域へ

それでも——ここが肝心なのですが——2026年の大谷さんは、7月初旬の時点で、キャリアで最も速いペースでWAR (総合的な貢献量)を積み上げています。リーグでNo.1の貢献です。しかもそれは、「一番身体的にきつかった」と 本人が振り返った2022年を、はるかに上回っています。本塁打は減りました。けれど、チームへの貢献は、過去のどのシーズンより 大きいのです。これは「衰え」で説明できる現象ではありません。むしろ、技術が円熟し、負荷をうまくコントロール できるようになったからこそ、抑えるところは抑えながら、それでも二刀流という未知の領域に一歩ずつ 切り込めている——そういうことなのだと思います。

今年、2022年型に寄せたのは、衰えや、何かを諦めたからではなく——きっと、長く、そして遠くまで二刀流を歩き続けるための、 円熟した大谷さんの“選択”だったのでしょう。

そして、もしこの見立てが正しいなら——打撃の出力は、ここから少しずつ上がっていくはずです。 伸びしろは、ちゃんと残っています。大谷さんの本番は、ポストシーズンなのですから。

夏を越え、秋が近づくにつれてバットが本気を取り戻していくなら——やはり「衰え」ではなく「出力配分」だった、という何よりの 答え合わせになります。その日を、私はただ、楽しみに待っています。

編集 @shoheidailylab


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データ出典: Baseball Savant (Statcast) 2021–2026 / 自前集計(tools/pitch_grade)。 数値は2026/6/30時点(過去の年は基本フルシーズン、2026は6月末まで)。