Shohei Daily Lab

大谷さんの構えは、2023年に戻されていた — 「復活勝利の日」から始まった1年

2026/9/8

大谷翔平の構えの幅(両足の間隔)2026年シーズンの試合別推移
図1:2026年シーズン。点がその日のスタンス、線は前後5試合をならした移動平均(=その時期のトレンド)。オレンジは本文で触れる3日。

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大谷さんの打席での「歩幅(両足のスタンス)」を、今季の全試合ぶんグラフにしてみました。

開幕5試合で平均36.04インチだったスタンスが、徐々に狭まっていき、直近5試合では30.83インチ。シーズンを通して5.2インチ(13センチ)狭くなっています。

左膝に注射の措置を行ったオールスターブレイク以降、スタンスは少し拡げていました(7月中旬の31.5インチ台から、7月下旬には32.9インチ台まで)。ですが、そこからまた狭める方向に戻り、9月の2試合は30インチ台です。

見てほしいのは、オレンジの3点

周りから急に落ち込んだ(変調した)日が、3日あります。

今季、周囲から急に落ち込んだ3日(単位:インチ)

日付スタンスその日に何があったか
6月10日31.36−0.84左膝の負傷が最初に伝えられ、翌11日から欠場
7月7日30.45−1.27翌8日が本来の登板日。スライドが発表され、以降の登板なし
8月29日29.93−1.47復帰登板が白紙と発表。今季最小(この日は4打数1安打、翌日は5打数0安打)

カッコ内は、その日を除いた前後2試合ずつ(計4試合)の平均との差。周囲の水準からどれだけ落ち込んだかを表します。

いずれも、翌日には元の水準に戻っています。その日だけ狭める形です。

おそらく当日の膝の状況が思わしくない場合に、予防的な措置として——負担をできるだけ減らすように——スタンスを狭めているのかもしれませんね。

縮小の謎

今季だけを見ていると「開幕から狭くなり続けている」で終わります。ですが、この計測(Statcastのバットトラッキング)が始まった2023年8月まで、さかのぼって同じグラフを描いてみました。

大谷翔平の構えの幅(両足の間隔)2023年8月から2026年9月までの試合別推移
図2:2023年8月〜2026年9月の477試合。横軸は試合の並び順で、オフシーズンは詰めてあります(破線がシーズンの切れ目)。線は10試合の移動平均。縦の実線は「打者専念の始まり」と「先発復帰の完成」。図1とは縦軸の範囲が違います。

このデータを眺めてみて、ホント素直に感動しました。たぶんまだ誰も気づいていない、大谷さんの驚くべき綿密さについてです。

何年も前から先を見据えて計算されていたのだろう、と思わされる形をしています。

すべては「復活勝利の日」から始まっていた

グラフの頂点は、2025年8月26日の38.69インチ。幅が狭くなり始めるのは、その翌日からです。

2025年8月27日は、何の日だったか。肘の手術から復帰して、先発として5回を投げ切り、ドジャースで初めて勝ち投手になった日です。

二刀流が戻ってきた、その日を境に。大谷さんは構えを、フル二刀流を戦っていた2023年の幅へ、戻し始めています。

2024年、2025年と2年かけて広げた幅を、2023年後半とほぼ同じ水準(2023年後半31.70インチ / 今年8月の月平均31.99インチ)まで、今年の8月に戻しました。

オフを挟んでも、線がつながっている

ここがいちばん驚いたところです。各年の「最終5試合」と、翌年の「開幕5試合」を並べてみます。

シーズンの境目(単位:インチ)

境目前年の最終5試合翌年の開幕5試合
2023 → 202432.1432.15+0.01
2024 → 202534.3234.90+0.58
2025 → 202636.2536.04−0.21

冬(オフシーズン)を挟んでも、前年最終戦の続きから再開しています。4年477試合、どこにも段差がありません。

毎年、一からつくり直しているのではなく、ずっと同じ1本の計画上を歩いているようにも見えます。

2年で広げたものを、1年で戻している

しかもこの戻し方、相当に難しいことをやっています。

打者に専念していた2年(734日)で、約7インチ広げました。それを、この1年(371日)で戻しています。倍の速さです。

両足の幅が変われば、目線も、立ち方も、体重の乗せ方も、タイミングの取り方も全部変わると思いますが、大谷さんはそれを毎月1インチ弱ずつ、打席に立ちながら少しずつ動かし続けていたことになります。

この計画性とブレなさ、凄いと思いませんか。

しかも今年は途中で、左膝を痛めます。月平均を並べると、この1年で最も急に下がった月が、その6月でした(−1.90インチ/他の月は0.4〜1.2)。そして登板が消えた直後の7月中旬には、4年間でも最大級の「戻し」が入ります(10試合平均で+1.21インチ)。

この1年、左膝の状態に合わせながら打撃調整をした跡が、2026年の乱れたグラフに表れているように、私には思えます。

広げる効果と、狭める効果

では、そもそも構えの幅を広げると何がよくて、狭めると何がよいのか。

広い構えは、下半身をどっしり使える形です。打つことだけを考えていい2年間なら、そこまで踏み込んで出力を安定させにいける。逆に投げる年は、同じ下半身を登板でも使います。狭い構えは、その負担をできるだけ和らげるための形——だとすれば、2023年の31インチ台と、2024〜25年の38インチ台は、「投げる体」と「打つ体」のデザインの違いだったことになります。

投げるために、打ち方のほうを1年かけて作り替えていたということです。二刀流への——投げることへの思いの強さが、この線には出ていると思います。

歩幅のグラフが語るもの

しかしながら7月3日の登板を最後に、マウンドには上がれていません。8月29日には、復帰登板が白紙と伝えられました。そして9月8日、本人の口から、今季の登板が事実上なくなったことが伝えられました

それでも——段差なく1本につながった4年分の線と、その中の今年の乱れた線。どちらのグラフも、大谷さんのゆるぎない二刀流への情熱の軌跡だったと言えるのではないでしょうか。

※ 構えの幅は、Statcastのバットトラッキングが計測する「投球開始時点の両足の間隔」(avg_foot_sep0)です。試合ごとの平均をBaseball Savantから取得し、計測開始日の2023年7月14日から2026年9月2日まで、484試合・うちデータのある477試合を使っています。

編集 @shoheidailylab


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