Shohei Daily Lab

8/17 対Ashby あの併殺打とホームランの間にあったもの

2026/8/18

8月17日 対アシュビー第4打席:実際の二ゴロ併殺(赤)と、同じスイングでバットが1.5インチ下だった場合(青)の3D軌道シミュレーション
図1 8月17日 対アシュビー第4打席の3D軌道。赤=実際の打球(105.9mph・打球角−10°、二ゴロ併殺)。青=同じスイング・同じ球で、バットがあと1.5インチ(約3.8cm)下に入っていた場合(105.9mph・28°・推定404ft、センターへ)。薄い青の破線は、打球速度がモデル上の上限(115mph)まで出た場合。フェンスはドジャースタジアムの近似(センター395ft・両翼330ft)。

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8月17日 ブリュワーズ戦 8回裏、1死一・三塁、3点ビハインド。カウント2-0からアシュビーの98マイルのシンカーを大谷さんが叩いた打球は、105.9マイルで二塁手の正面に転がり、併殺になりました。テレビの前で声が出た人も多かったと思います。私もそうです。

でも、あれはいいアプローチだと思いました。そして、紙一重だった、と。今回は、その感覚が正しかったかどうかを、データと数字を使ってシミュレーションしてみました。結果、わかったことは二つ。ひとつは、たしかに紙一重だったこと。もうひとつは——こちらのほうが大事なのですが——私たちが「好調のしるし」にしてきた大谷さんのセンター方向へのホームランは、あの併殺ゴロと紙一重のところにあった、ということです。

紙一重だった — 同じスイングで、当たり所だけを動かしてみる

まず、あの打席のスイングの中身です。バットスピードは77.5mph。今季の大谷さんがホームランを打ったときの平均(77.6)と、まったく同じでした。バットが下から上へ振り上がる角度も、いつもどおり。ボールをとらえた位置は、体の中心から前へ24インチ(約61cm)。少し差し込まれ気味ではありますが、大谷さんとしてはまずまず平均的なポイントです。

バットスピード=Statcastの bat speed(バットの芯の速度)。振り上がる角度=attack angle(接触の瞬間のバット軌道の上向き角。この打席は10.8度、今季平均は約12度)。とらえた位置=intercept(打者の重心からボールまでの前後距離)。

そこで、ひとつシミュレーションをしてみました。投球はStatcastの記録から1球そのままを再現し、スイングの速さ・角度・とらえた位置も同じにします。変えるのはバットとボールが当たる高さだけです。

投球はStatcastの9つの物理パラメータ(初速・加速度など)から、投げた瞬間からバットに当たるまでを再計算しています。バットとボールの衝突は、物理の教科書にある「反発係数と摩擦」の簡単なモデルで、実際の打球速度と角度に合うように調整してあります。バットの軌跡や面の向きは公開データからの推定で、テレビ中継のHawk-Eye映像のような生データではありません。

接触点をバットの軸方向から見た断面。実際(赤)はボール中心のやや上、バットが1.5インチ下(青)ならボール中心の下に当たる
図2 接触点を「バットの軸方向から見た断面」で表したもの(単位はインチ、ボールを固定してバットを動かしています)。赤=実際のバット位置。ボール中心のやや上(約6°上)に当たり、ボールが受ける力(矢印)は少し下向き。青=バットが1.5インチ下にあった場合。ボール中心の下(約21°下)に当たり、力は上向きになる。二つのバットの高さの差が「1.5 in」。

バットを下げる量と、打球の変化(同じスイング・同じ球)

バットの位置打球角方向結果
0(実際)−10°右中間 +23°二ゴロ併殺
0.5インチ下+2°やや右中間 +16°ライナー性のヒット
1.0インチ下+15°センター寄り +8°強いライナー
1.5インチ下+28°センター −1°推定404ft・HR率73%
2.0インチ下+43°左中間 −15°高いフライ

※ 打球速度は「実際と同じ効率で当たった」と仮定して105.9マイルで固定しています。飛距離とHR率は、今季メジャー全体で同じ速さ・同じ角度で飛んだ打球(105〜106マイル・28度前後、約1,000本)の実データから。方向の「+」は引っ張り(右)側です。

結果は表のとおりです。バットが下に入るほど打球は上がる——これは当たり前で、驚くところではありません。注目してほしいのは表の「方向」の列。実際の打球はセカンド正面へのゴロ。ところが同じスイング、同じ球で、バットの高さが変わるだけで、打球の行き先は右中間 → センター寄り → センターと、少しずつ左へ動いていきます。1.5インチ下なら、28度で上がって推定404フィート、方向はセンター(HR率73%)。上がるだけでなく、方向まで変わるのです。

同じスイング・同じ球の3D比較アニメーション。左が実際の併殺打、右がバットが1.5インチ下だった場合
動画 左=実際の併殺打、右=バットが1.5インチ下だった場合。投球からスイング、接触までを同じ時間で並べ、接触の瞬間に真上からの視点で「バットの面の向き(緑)」と「打球の方向(赤の破線)」を見せています。橙はバットの芯が動いている向き、桃色の点線はボールをとらえた前後の位置。

ここでひっかかった方がいるはずです。「上がるのはわかる。でも、なんで方向まで変わるの?」

ボールとバットの接触点によって変わる打球方向

答えは、昔、物理の授業でならった「力の分解」にあります。斜めに押された物は、上下と左右、両方に動く——

バットは、ヘッド(先端)が下がった状態でボールに当たります。大谷さんの場合、およそ30度くらい傾いていると推定できます。ボールがバットから受ける力は、バットの表面に垂直な向きに働きます。バットが斜めなら、その垂直な向きも斜めです。

物理の言葉では、衝突でボールが受ける力(力積)の向きは接触面の「法線」(面に垂直な方向)です。バットは円柱なので、ボールのどこに当たるかで法線の向きが変わります。この記事の「面の向き」は、打球の速度ベクトルから投球の速度ベクトルを引いた向き(=ボールの速度変化の向き)として公開データから推定しています。

捕手から見た左打者のバットとボール。ボールの下側に当たると力は上向き+三塁側、上側に当たると下向き+一塁側に分かれる
図3 捕手から見た大谷さんのバットとボール。バットの向きは2枚とも同じ。上下どちらに当たるかで、力の左右成分(青)の向きが反転する。

捕手の位置から見た図で説明します。左打者のバットは、手元が右上(一塁側)で高く、ヘッドが左下(三塁側)で低い。

バットの向きはそのままなのに、当たった高さが数センチ違うだけで、左右に働く力の向きが逆になる。上を叩いた打球は自然に引っ張り方向へ、下をとらえた打球は自然にセンター〜逆方向へ寄る。これは大谷さんの打球だけの話ではなく、物理法則(全打者共通)の話です。

左右の分と上下の分の比は、バットの傾きの tan(タンジェント)になります。傾き30度なら約0.58。実データでも、同じ深さでとらえた打球の中で「面の左右の向き」を「上下の当たり所」に回帰すると傾きは −0.6〜−0.7、つまり傾き30〜36度に相当し、この幾何と一致します。

ここまでの要点

  1. ゴロかフライかは、バットがボールの上に当たったか、下に当たったかで決まる。差はボール半個分。
  2. バットのヘッド(先端)は下がっており斜めなので、ボールの上面に当たれば力は引っ張り側へ、下面に当たれば力はセンター〜逆方向側へ向く。同じ接触ポイント、スイング軌道でも打球方向が変わる。
  3. なので、引っ張りゴロとセンター方向への飛球は、別のスイングではなく、同じスイングのボール半個分の上下から生まれる(こともある)。

「引っ張りゴロ」と「センターへのホームラン」は、紙一重だった

あの併殺打は「引っ張ってしまった」失敗ではなく、「上を叩いた」結果として引っ張り方向に転がった打球でした。アシュビーの98マイルのシンカーは、フォーシームと同じ軌道で来て、フォーシームより数インチ沈む球です。大谷さんはその球にしっかりコンタクトはできた。ただ、その沈みの分だけ、ボールの上面をやや叩いてしまった。バットがあと0.5インチ下なら打球角2度、やや右中間寄り(セカンド左横)のライナー性のヒット。1インチ下なら15度の強いライナーで右中間を抜けるツーベース。そして1.5インチ、ボール半個分下なら、私たちが好調のしるしと呼んでいる、あのセンター方向へのホームランでした。

1.5インチ。紙一重の世界です。次にセンターへ大きな当たりが出たとき、その裏に同じスイングの引っ張りゴロがあったことを、少しだけ思い出してみてください。

※ 数字はすべてStatcast(2024-2026年)からの自前集計です。「バットがあと1.5インチ下だったら」は、投球をStatcastの記録から再現し、スイングの速さ・軌道・とらえた位置を固定したうえで、バットとボールの当たり所だけを動かした物理モデル(バットとボールの衝突モデル。実測の打球速度・角度で較正)の計算結果で、実測ではありません。飛距離は今季の同じ打球速度・角度帯の実データ平均です。打球速度は「実測と同じ効率」を仮定した105.9マイルを使っています(モデル上はもっと速く出る余地があります)。バット軌跡と面の向きは公開データから推定したもので、Hawk-Eyeの生データではありません。

編集 @shoheidailylab


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