Heavy Sports の記者 Owen Crisafulli が伝えた一本(元記事)に、ちょっと立ち止まりました。殿堂入り投手のジョン・スモルツが、SportsBoom のインタビューで大谷翔平を「現時点のサイ・ヤング賞最有力」と言い切ったのです。9登板、防御率0.82。文句のない数字。なのに、スモルツ本人がその直後に、留保をいくつも置いていく。
スモルツが言葉を選んだ「最有力」
スモルツは1996年にブレーブスでサイ・ヤング賞を獲った人で、この賞を獲ることの難しさを身体で知っている人です。その人がこう言いました。
"The Cy Young favorite right now to me is going to be Ohtani, just based on what he's able to do and the team he's playing for now."
「今の私にとってサイ・ヤング賞の最有力は大谷だ。彼ができていること、今プレーしているチームを踏まえての判断だ」
注目したいのは、「成績がすごいから」ではなく「できていること」と「チーム」という言い回しなんですよね。9登板で5勝2敗、防御率0.82、奪三振61、WHIP 0.82――この数字を並べるだけでも十分に説得力があるのに、スモルツはそこに寄りかからなかった。
理由は、たぶん次の発言にあります。
"Whether or not he gets the accumulated statistics and innings, that is yet to be determined."
「累積成績やイニング数に届くかどうかは、まだ未確定だ」
支配率は申し分ない。でも、サイ・ヤング賞は 支配率 × 量 で測られる賞でもある。スモルツはそこを正直に置いていきました。
「内容」は満点、では「量」は届くのか
ここで自前データを少しだけ並べてみます。9月末時点で、大谷さんの今季投球回は55イニング。9登板を経ての数字なので、1登板あたりおよそ6.1イニング。ペースとしては悪くない――というよりむしろ立派なのですが、そもそも登板数が9というのが、ここまでの "戻し方" を物語っています。
規定投球回(162回)に届くかどうかは、残りの登板を何試合確保できるかにそのまま重なります。たとえば残り登板で1試合あたり6イニングを刻んだとしても、162回に到達するには あと18登板 必要になる計算。これは、2024年・2025年と段階的にマウンドへ戻ってきた大谷さんの起用と、ドジャースという "勝ちすぎているチーム" の終盤運用を考えると、決して自動的な数字ではないんです。
スモルツが続けた一言が、ここで効いてきます。
"The issue is going to come down to individual award versus team accomplishments, and the Dodgers are going to have the luxury to rest guys more than likely at the end of the year, which may hurt individual awards."
「論点は個人賞対チームの成果に帰着する。ドジャースは終盤に主力を休ませる余裕がある可能性が高く、それが個人賞には不利に働くかもしれない」
ドジャースは38勝21敗で地区首位。10月の万全を優先するなら、9月の大谷さんを1〜2回飛ばしてもおかしくない。チームが強いほど、個人賞は遠ざかる――この逆説を、スモルツは "luxury(余裕)" という単語で表現しました。優しい言葉ですが、票を数える側にとってはわりと冷たい現実です。
サンチェス、スキーンズ、そして「唯一の未獲得」
ナ・リーグのサイ・ヤング賞争いは、大谷さんひとりの話ではありません。フィリーズのクリストファー・サンチェスが現時点の先頭にいると見られていて、パイレーツのポール・スキーンズも、序盤に本来の球威を欠く時期がありながら、終盤に向けて当然のように戻ってくる。三つ巴になる可能性が、いまのところいちばん高いシナリオです。
そして、見落としたくない前提がもうひとつあります。サイ・ヤング賞は、大谷さんがキャリアで唯一獲っていないタイトル だということ。MVPは過去5年で4回、ワールドシリーズは2024年と2025年に連覇。本人も「リーグでプレーしているうちに少なくとも一度は獲りたい」と公言しています。
つまり、これは「投手・大谷翔平」が個人賞として最後に残した一枚のカードであり、同時に、チームが強すぎることで遠ざかりかねない という、ややこしい立ち位置にある。スモルツが「最有力」と言いながら、その口で留保を重ねたのは、たぶんこの構造そのものに敬意を払っていたからじゃないかな、と思います。
防御率0.82は、最有力を名乗るに十分な数字です。ただ、票が動くのは10月の手前――9月の登板を1回多く確保できるか、ベンチに座る日が何日になるか――そういう、地味で運用的な判断の積み重ねの先にある。Owen Crisafulli の筆も、最後はそこに着地していました。
"If Ohtani can continue to take the mound and pitch at this level, he could very well emerge as a clear-cut favorite for the award by the time all is said and done."
「もし大谷さんがこのレベルでマウンドに上がり続けられたなら、最終的には頭一つ抜けた最有力候補として浮かび上がる可能性は十分にある」 — Owen Crisafulli / Heavy Sports
支配率はもう証明された。残されているのは、162という数字を、強すぎるチームの中でどう確保するかという、最後の宿題なんですよね。