Yahoo Sports の編集チームが5月29日、ポッドキャスト「Baseball Bar-B-Cast」での議論をもとに、ナ・リーグ サイ・ヤング賞レースの現在地を整理しました(NL Cy Young Race Check-In、Jake Mintz & Jordan Shusterman)。主役はフィリーズのクリストファー・サンチェスとブルワーズのジェイコブ・ミシオロウスキー。そのなかに、大谷翔平の名前は「3番目」として、しかし条件付きで置かれていました。
5月のナ・リーグを独占したふたり
サンチェスは4月30日以降、44回2/3を無失点で投げ続けています。ライブボール時代(1920年以降)で7番目に長い記録、左腕としては史上最長。5月は5登板すべて無失点、四球3に対して三振45。Mintzはこう言い切ります。
"This is the seventh-longest streak of the live-ball era. Longest ever by a left-handed pitcher. Christopher Sanchez is doing something unbelievable."
「ライブボール時代で7番目に長い連続無失点。左腕としては史上最長。クリストファー・サンチェスがやっていることは、ちょっと信じられない水準なんです」
そのサンチェスを追うのが、ブルワーズのミシオロウスキー。5月は31回1/3を投げて被安打11、自責1、四球6、奪三振49。サンチェスより8イニング少ないのに、三振は4つ多い。Shustermanは「ミズは、最近見たどの投手にも引けを取らないくらい支配的に見える」と語っていて、5月だけで言えば、ふたりはほぼ同格として並べられています。
通年成績で見ても、サンチェスは79.1イニングでERA 1.47、ミシオロウスキーは64.0イニングでERA 1.83。どちらも、ふつうの年なら単独で賞レースを引っ張れる数字です。
「3位タイ」に置かれた大谷さん
そのあとに、Shustermanの口から大谷さんの名前が出ます。ロッキーズ戦で6回ノーヒットを記録し、その登板で1失点。シーズン通算では55イニング、ERA 0.82、WHIP 0.82、奪三振61。
率の数字だけ並べれば、サンチェスもミシオロウスキーも届きません。それでも会話の入口は、いつもこの一文から始まるんですよね。
"He is much farther behind when it comes to innings, which is the whole conversation when it comes to Ohtani and the Cy Young."
「投球回ではかなり後れを取っている。それが、大谷さんとサイ・ヤングを語るときの論点のすべてなんです」
55イニングという数字は、サンチェスの約7割、ミシオロウスキーの86%。規定投球回には到底届きません。ここでShustermanは、自分で挙げた「論点のすべて」を、自分の手で一度ひっくり返します。
"However, even though he is not quite qualified because he's only at 55 innings, he now is tied with Paul Skenes for third in pitcher fWAR among National League starters."
「とはいえ、規定到達ではないにもかかわらず、いまナ・リーグ先発投手のfWARで、ポール・スキーンズと並んで3位タイにつけているんです」
イニングは足りない。でも、貢献度の指標で並べると、もうスキーンズと並ぶ位置にいる。「賞レースに入れていない」と「すでに3位タイ」が、同じ投手について同時に成立してしまう。この奇妙な並びが、いまの大谷さんの立ち位置を表しています。
投手 | IP | ERA | WHIP | K | 5月の核 |
|---|---|---|---|---|---|
サンチェス | 79.1 | 1.47 | 1.12 | 95 | 44 2/3 連続無失点(左腕史上最長) |
ミシオロウスキー | 64.0 | 1.83 | 0.83 | 100 | 31 1/3 IP / 49K / 1失点 |
クリス・セール | 67.0 | 2.01 | 0.94 | 80 | 37歳、球速がキャリア最速級 |
大谷翔平 | 55.0 | 0.82 | 0.82 | 61 | 対ロッキーズ 6回ノーヒット |
山本由伸 | 64.0 | 3.09 | 0.98 | 59 | 「議論に入っていない」と言われる位置 |
並べると、率では大谷さんが頭ひとつ抜けていて、絶対量ではサンチェスが抜けている。この距離の埋め方が、今シーズン後半の論点になります。
同じ天秤に「会話の外」と「会話の内」
この記事のもうひとつの読みどころは、山本由伸の扱いです。64.0イニング、ERA 3.09。決して悪い数字ではありません。それでもShustermanは、こう切り捨てます。
"Yamamoto is nowhere near this conversation, and it's not like he's having a bad year."
「山本はこの議論の射程にすら入っていない。悪い年というわけでもないのに」
同じドジャースの先発で、片方は「悪くないのに会話の外」、もう片方は「イニング不足なのに会話の3位タイ」。この差を作っているのは、率の極端さと、fWARという指標がそれを救い上げている、という事実です。
救援のメイソン・ミラーが「先発陣がこれほど強力なら、チャンスはない」と早々に消去されたのとは対照的に、大谷さんは「先発投手として」テーブルに残されました。DHを兼ねながら、です。
ここで気づくのは、サイ・ヤング賞をめぐる議論の構造が、去年と何ひとつ変わっていないということ。「イニングが足りない」「それでも率と指標が異常」「だから会話には入る、でも勝てるかは別」。同じ問いを、わたしたちは2年連続で見せられています。違うのは、今年の「率」のほうがさらに極端になっていることだけ。
55イニングで防御率0.82、WHIP 0.82。この数字の異常さは、たぶん残り4か月で「異常」のままでは終わりません。どこかで補正されるか、それともサンチェスの44回2/3のように、補正されないまま歴史側に渡されるか。9月の終わりに、「3位タイ」という但し書きが取れているのか、それとも但し書きごと残るのか――その答えを、Shustermanはまだ自分でも決めかねている口ぶりでした。
"He now is tied with Paul Skenes for third in pitcher fWAR among National League starters."
「いま、ナ・リーグ先発投手のfWARで、ポール・スキーンズと並んで3位タイにつけているんです」 — Jordan Shusterman / Baseball Bar-B-Cast(Yahoo Sports)
イニングが足りないという理由で会話から外せない投手が、ナ・リーグの3位タイに座っている。サイ・ヤング賞の議論が、今年もまた、大谷さん専用の但し書きを必要としています。